シカゴ・ブースのオペレーションズ・マネジメントの講義で、今から30年近く前に書かれた行列についての興味深い論文をシカゴ大学のDan Adelman教授からご紹介頂いた。行列というのは空港や有名レストラン、税務署などで出来る、あの忌まわしい行列のことである。シカゴへの帰りの飛行機の中で読んでみたのだが大変面白く、ブログにアップする価値があると思った。この論文はオンラインでただでも読める。
http://davidmaister.com/articles/5/52/
論文の中で、行列についての各論に入る前に、著者は我々が普段何となく感じている現象を以下の方程式の形で表している。すなわち、
S=P-E
Sはsatisfactionすなわち満足、 Pはperceptionすなわち印象、 E はexpectationすなわち期待;「それまで持っていた期待と、実際に受けた印象の差が満足として感じられる」これはつまり、例えば五つ星のレストランに行くということは期待値Eを最大化させてしまうために、必ずしも得策ではないということを明快に示している。また顧客満足の最大化を目指すためには、二つの方法があるということも示している。一つはPを高くすること、この場合はいいサービスをして、あるいはいい製品を作るということ、そしてもう一つは顧客の期待値をある程度のレベルにまで抑えるということである。大学の同級生の男の子が普段はだらしなくふらふらしているのに、ある日突然真剣な眼差しであなたへの愛を打ち明けるとき、あなたは既に(大抵は間違った)恋に落ちている。満足感のギャップを生み出すために、期待値を予め下げておくというのは、意味ある戦略なのである。
本文では以下の8つの原則が説明されているが、いずれも内容は自明であろう。
- 何かしている時間の方が何もしていない時間よりも長く感じられる
- 事前の待ち時間の方が、最中の待ち時間よりも長く感じられる
- 不安は待ち時間を長く感じさせる
- 不確定な待ち時間は、決まっている待ち時間よりも長く感じられる
- 説明のない待ち時間は、説明がされている待ち時間よりも長く感じられる
- 不公平な待ち時間は、公正な待ち時間よりも長く感じられる
- サービスの価値が高ければ高いほど、人は長く待てる
- 一人で待っているほうが、数人のグループで待っているよりも長く感じられる
最初のほうで、著者はその当時のFedexの広告を引用している。「待ち時間とは、苛立たしく、やる気をなくさせ、苦痛で、状況をさらに悪化させ、不快で、時間の無駄で、そして何よりも非常に高くつく時間のことである。」しかし、ここでは敢えて行列の効用について考えてみたい。日本にはラーメンマニアなる人種がおり、彼らはその至福の一杯のためなら何時間も行列について待っていても構わないと考えている。列の長さはその店のサービスの質(ラーメンの味)をシグナルしている。なので、仮にあなたがラーメンマニアでなくても、昼時だというのに列が全くついていないようなラーメン屋に入ってみようという気にはあまりなれないのである。そんなわけで日本の国花の名を冠する有名な戦術「サクラ」が有効なのである。典型的にはレストランを開店したときに、自分の友人や親戚に頼んで来店してもらい、店が混雑しているというように見せるのである。もちろんそのためにお金を払うということもありうる。
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