Saturday, August 29, 2015

人事について


“お前らホントにムカつくんだよ。俺はこれまで人事部の人間で頭が悪くなかった奴に出会ったことがない。”―スティーブ・ジョブス(私訳)
“I’ve never met one of you who didn’t suck. I’ve never known an HR person who had anything but a mediocre mentality.”
  • 会社の人事部は少人数で会社全体をカバーしなければならないという構造的な問題を不可避的に抱えている
  • 人事はその仕事の性質上、過剰な期待を従業員に対して抱かせてしまう性質がある
会社の人事部というのは学校の先生と似ている部分が二つほどあると思う。一つは、少ない人数で何十倍もの従業員をカバーしなければならないということ、もう一つは従業員の人事部に対する期待が過剰であるということである。それぞれ説明する。
一つ目は当たり前だがつまり一人当たりに割り当てられる人数が多いので、人数的に1対多の状況になっているということである。学校では先生一人当たり、30人だか40人だかという生徒を受け持たなければならないという状況とよく似ている。
もう一つは、人事の仕事には従業員の公私にわたるサポートが含まれているので、何かそういう問題が生じた時には最初に相談をする部署が人事部であるし、従業員の心理的にもどうしても依頼心が生じてしまうということだ。新入社員として最初に会う会社の人は人事であるし、人事も頼られたいと思っている(できるかどうかは別として)。つまり、従業員の人事部に対する心の期待値は、少なくとも最初は否応なく高いのである。これも学校の先生の状況とよく似ているというのは、特に理由を説明する必要もないと思う。
この二つは相互に状況を悪化させていると思う。つまり、先生がどれだけ生徒を愛していて、努力を注ぎ込もうとしても、一人当たりに割いてあげられる時間と労力とはどうしても1/30または1/40にならざるを得ないのである。更にここには平等という概念も入ってくるために事態をますます難しくしている。一方で生徒にとっては、この場合重要なのは生徒本人よりも生徒の親だと思うのだが、親にとって大事なのは自分のかけがえのないたった一人の娘なのであり、原則的にクラスの他の子どもには興味がないわけで、ここに一人の生徒を巡っての思い入れの差のようなものがどうしても生じてしまう。しかも相手は「学校の先生」であり、「子供を愛しているから学校の先生になった」はずであるから、少なくとも本来であれば「自分の娘のことを自分と同じように愛をもって接してくれるべき」であると思っている。なのに何でうちの娘がA君にいじめられているのを見逃してしまったのか。「学校の先生」なんだから当然気づくべきだ。
この話は会社の人事の話と酷似していると思わないだろうか。普段の仕事であれば、相手が忙しいのであればやむを得ないからペースを落としてあげようということにもなるかもしれない。しかし、人事は自分の人生の話なのである。自分の人事異動、自分の給料、自分の昇進。だが、どう見ても人事は自分のことを所詮one of themとしてしか考えてくれないようだ―――同じような印象を果たして例えば自部門の本部長みたいな人に対しては感じるだろうか?本部長だってあなたのことは所詮one of themである(そう思いたくないかもしれないが)。やはり、人事というのは他の仕事の局面と違ってどうしても我々に過剰な期待を抱かせてしまうのである。
こういう問題は構造的なので解決は難しいのだが、一つにはあまり期待値を上げすぎないことだと思う。つまり「俺は人事だが基本的に自分の面倒は自分で見るように」と冷たく突き放すというのも戦略だろう。しかし、それでも頼ってくる人がいたらやさしく対応してやる。こういうエクスペクテーションマネジメントは、人事でも重要だと思う。あとはテクノロジーとアウトソースとを十分に導入して、一人当たりに割いてあげられる人事的資源をより大きくするということだろうと思う。
それにしても、日本の新入社員の希望配属先の第3位に人事部があげられているのも、子供が親以外に初めて会う社会人として学校の先生があって、だから子供のうちは学校の先生になりたいと思うのと似ているような気がする。いずれも実態を知るまでの間だけのことだと思う。

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