自分の場合はこのようにしてそもそも初めて海外に行ったのが遅かったので、行って来いと言われて初めての時は、実際にどうやって行くのかをインターネットを調べまくっておっかなびっくりだった記憶がある。しかし、繰り返し行くうちに、自分のような庶民がどうすればうまく出張を、実務的にも、心理的にも乗り切れるのかということに関するコツみたいなものがだんだん蓄積されてきた。その中には多分にユニークなものもあるはずなので、ここでいったん整理してみようというわけである。今後私のように30半ばすぎてから初めて海外出張に行く人間の、少しでもお役に立てれば幸いである。
1) 洗濯
自慢ではないが、私の自宅には洗濯機というものがない。必要に応じてコインランドリーと手揉み洗いとを組み合わせている。これにはいろいろな健康上の理由もあったりするのだが、私自身があんなカビだらけの醜い箱が部屋の中に存在しているのが許せない思っているということもある。私はそもそも洗濯は嫌いではない。だが、主張先での洗濯はことのほか楽しいのである。幾つか理由を挙げてみる。
- 温水が使い放題: ざぶざぶ使っても全く罪悪感がない。石鹸水に洗濯物を付けて30秒ほど揉んだら風呂桶が半分くらいになるまで温水を張って二回ほど濯げば、洗濯機を使うよりもはるかにきれいになる。
- タオル脱水ができる: 手揉み洗濯の最大の問題点が脱水である。しかしながら、ホテルであればその問題は完全に解消できる。つまり、濡れた洗濯物を少しだけ絞ったら(強く絞ると線維を痛めるので注意)、広げたバスタオルの上に広げて、そのまま海苔巻きの要領でくるくると巻く。そのうえで、筒状になったタオルごときゅっと絞るのである。そうするとかなりの水分がタオルに移ってしっかりと脱水できる。ホテルにはふつう余分にタオルが置いてあるし、毎日取り換えてくれるので、極めて好都合である。
- 加湿: 冬の洗濯ものの部屋干しの大きな動機の一つとなる加湿であるが、日本よりも湿度の高い先進国はシンガポールくらいであり、アメリカやヨーロッパではいつも干している端から瞬く間に洗濯物は乾いてゆく。まあ、実際に加湿効果がどれほどあるかは疑問であるが。
- 帰国後の後始末の軽減: はっきり言って、汚れた洗濯物を一杯にスーツケースに抱えて帰国したくないのである。汚れた洗濯物というのは「悪」である。そんな文字通りのお荷物をいっぱいに抱えて空港につきたくない。家に帰ってから改めて洗濯とかはもう疲れて時差ボケで、ごめんこうむりたい。
2) ジョギング
更に自慢ではないが、私は海外旅行というものをしたことがない。つまり、海外には仕事でしか行ったことがないのである。海外旅行などは女子供の行くものであって、大和男児が行くものではないと固く信じているし、日本人にはそもそも海外でバカンスなどは向いていないとも思っている。はっきり言って日本人男子が海外旅行に行く目的はただ一つ。帰国してから自慢するためである。大学時代から海外旅行によく行っている同級生などのする土産話を私は心ひそかに馬鹿にしていた。やや極端な意見かも知れないが、私は古風な人間なのだ。
しかしそんな私でも、海外出張でたまたま縁があって訪れたその街から、出来るだけのものを吸収したいとは思っている。やはり、多様性は今まで抱えていた問題を別の角度から眺める可能性を提供し、その問題をより効率よく解決するためのヒントを与えてくれるかもしれないとも思っているのである。
そんな時に一番お勧めしたいのはジョギングである。地図を見ながらコースを決め、そこに住んでいる住人と同じ目線で街を眺める。すると観光ガイドが教えてくれないようないろんなことに気が付くはずだ。例えば、私が昔から注目しているのが野鳥である。同じスズメのような鳥でも、日本と海外とでは微妙に違う。そんなことも、ホテルのジムで運動していたのでは気が付かないだろう。
また海外出張ではどうしてもカロリー収支が入超になる傾向にある。美味しいものも出てくるし、朝ご飯はビュッフェスタイルのところも多くて、今まで朝ご飯など殆ど食べなかった私のような人間でも思わずがっついてしまうのである。そんなときにもジョギングはお勧めである。ジョギングシューズだけ持っていけばできる手軽さもよい。ただし、交通事故だけには気を付けなければならない。海外でけがをすることがないようにしたいものだ。
3) 海外出張とはマウンティングである
eメールやSkypeがあり、チームがいくら地理的に離れていてもいくらでも一緒に仕事ができる環境になっている。それにもかかわらずなぜ我々は物理的に移動しなければならないのだろうか。確かに、仕事の中には、face-to-faceで向き合った状態の方が効率よくこなせる場合もある。しかし、私は言いたい。海外出張とはマウンティングであると。「俺は会社にとって、これだけビジネスクラスで出張に行かせて貰えるくらい、重要な人間なんだ」「わかったか、お前らとは違うんだ」
実際に、海外出張に行っていることを自慢する人は多い。恐らく、フェイスブックなどはその目的のために主に使われていると言っても過言ではあるまい。そして、やがてそういう連中は自分のマイルがいくら溜まっただとか、フリークエント・フライヤーのステータスがゴールドだプラチナだと騒ぎ始めるのである。実に見苦しい。逆に、私のように海外出張をお預けを食わされていた人間は(某社に勤めていた時には社命でパスポートを取ったものの、その後2年近く一度も海外出張に行くことはなかったという、苦い思い出がある)それだけに結構ルサンチマンがたまったりしていた。だからこそ声を大にして言いたい。「そんなこと言ったって、所詮会社に行かせてもらってるだけだろ」と。
そして、初めて海外出張に行くあなた。おめでとうございます。しかし、社内には必ずあなたの海外出張を面白くないと思っている人がいます。その人たちのことも考えて、どうかそっと行ってきてください。決して自慢げに行ってはなりません。「同期の中で俺が海外出張は一番乗りだ」だとか、そういうことは顔にも出してはいけません。ましてやフェイスブックにあげるなど、論外です。日本社会は嫉妬の社会。ねたまれていいことはありません。あなたが海外に行っている間に、ひそかにあなた抜きの同期会が計画されてしまったりするものなのです。きっとそこでは、いつも以上にあることないこと言われます。誰にも内緒で行くぐらいでちょうどいいのかもしれません。
このくらいの心の準備をしておくと、海外出張くらいは余裕でこなせるのではないだろうか。

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