Saturday, December 31, 2016

2016年末に寄せて

お世話になった皆様

2016年は「不思議な」としか形容できないような一年でした。人類がこれまでの築き上げてきた価値観や英知などといったものが、いわゆるポピュリズム的なうねりによって大きな疑問符を突き付けられた年であったと言ってもよいと思います。民主主義や市場の失敗としか解釈できないような出来事が次から次へと起こり、利害関係の調整はより難しく、多様性は分断を助長するものでしかないと皆が考えるようになったように見えます。所有者は自らの所有物が損なわれることを恐れ、既得権益は過剰なまでに守られました。与え、与えられることよりも、失わないことが優先される世界。この世界の傾向こそが今年起こった様々な混乱の原因だったのではないかと個人的には考えています。そしてこの傾向は当分維持されるような気がするのです。来年は欧州の主要国で選挙があり、また「あの」トランプ氏が米国大統領になるのも確実です。2017年には今年起こった様々な混乱を収拾する必要があるはずなのですが、だれもそんな交通整理をしたいと思っていないように見え、世界はまだまだ混乱から抜け出せないように感じています。

そんな中でも、そして日本の医薬品業界の経済的・政治的な低迷にもかかわらず、われわれe-Projectionにとって2016年が飛躍の年であったことに疑いの余地はありません。たった14カ月前に誕生したe-Projectionですが、この1年の間に書籍を出版し、オリジナルな分析論文が5報も掲載され、2つのイベントに参加し、4つの共同リサーチプロジェクトを走らせました。今年、弊社の事業活動をサポートしてくださったみなさま方一人ひとりのおかげであり、いくら感謝しても感謝し足りません。われわれは今後も引き続きこの成長を維持してゆきたいと考えています。そのためには3つの短期目標と、1つの中期目標を設定いたしました。
  • 2017年末までに
    • 都内にオフィスを構えます。
    • 株式会社化します。
    • フルタイムの従業員を一人以上雇用します。
    • これらをすべて無借金で実現します。
  • 2019年には
    • 年商1億円を突破します。
この成長を達成するために。来年早々にも東京都からどのような支援を受けられそうかというディスカッションを始めます。これには様々な助成金や、インキュベーター施設への入居、人材派遣などが含まれます。これまでのところ、東京都中小企業振興公社サイドは非常に前向きで、私たちも彼らの支援企業の一つとしてどのように彼らにもメリットを返して行けそうかという点を含めて考えています。また、引き続きビジネスネットワークの拡大のためにも、また潜在顧客としても、製薬企業、バイオテック企業の皆様方との面談も進めてまいりたいと思っておりますので、どうか変わらぬご支援をよろしくお願いいたします。

新年が皆様にとって良い年となりますよう、また皆様とまたお目にかかれますように願って、年末のごあいさつに代えさせていただきたいと存じます。





長手寿明
President, e-Projection

Friday, December 30, 2016

Year end remarks 2016

Dear our supporters,

Due to the lack of a better expression, 2016 was an "interesting" year, which many of our conventional values and wisdom were challenged by somewhat populism-related tides. We have experienced multiple and consecutive events that could be interpreted as a failure of democracy and of markets. Interests were not aligned within the general public, and diversity seem to only increase the internal divide. All over the world people seemed to be apprehensive about losing what they already own and was trying to over-protect their vested interests. There was less sense of giving and more of defending. And in my opinion, this was the cause of the huge mess that happened this year and I see no signs of improvement moving into the next. We have upcoming general elections in major European countries and the controversial President-elect in US will certainly become the Commander in Chief. More simply, in the coming year, people will have to pay back their bills. But nobody seems to be feeling that they are responsible.

Looking back on this year's e-Projection's business, 2016 was undoubtedly a year of expansion despite of the tough economic and political environment in the Japanese pharmaceutical industry. Founded just fourteen month ago, we have published one textbook, five original research articles, attended two conferences and went into four research collaboration deals. I cannot thank more to you all who supported our activities in the last 12 months. We will continue to strive after our growth in the coming year. We have three clear short-term goals and one mid-term, which are,

  • by the end of 2017
    • we will settle into a physical office
    • we will be incorporated as private company
    • we will hire more than one full-time employee
    • we will achieve this without any debt financing
  • on year 2019
    • we will become a 100 million JPY (approx USD 1 million) business
Early next year we will start discussions with the Tokyo metropolitan government about the subsidies and other offerings that can boost our growth. This will include moving into a startup incubator, financial supporting and accessing human resources. So far they are positive on the prospects of our business and we will see how our business can increase the diversity of the portfolio of companies that they support. Also, I will continue to meet with companies using various opportunities not only as a potential customer but also trying to expand the network of business.

I wish you all the best for the coming year and hope to see you in person very soon.





Sincerely yours,


Tosh Nagate
President, e-Projection

Saturday, December 3, 2016

未婚であることのトレードオフ

土曜の昼下がり、代々木上原の駅ビルに入っている中華料理屋「梅蘭」で一人で昼食を取ることにした。店に入り、一人であることを告げると、店員に案内されたのは長いソファーに向かって小さなテーブルがたくさん並んでいる席で、反対側には椅子があるものの混んでいなければ一人用の席として用意されていると言っていい席である。

周りを見渡してみると、少なくとも私と同じか、年上のお一人様ばかりがその一人用のテーブルに並んでいる。それどころか店の中はほとんどが一人できている客である。男女比は4:6で女性が多いか。なんだかある意味凄惨な眺めである。自分を棚に上げて思う。この人たちはいったいどういう理由で一人で土曜日の昼食を一人で中華料理店で取らなければならないのであろうか。家族はどうしたのか。そもそも普段は何をしているのだろう。

そのようなことを考えていると、隣の60代と思われる男性が帰り際に(案の定)店員に文句を言い始めた。「餃子のたれの量が多すぎる。餃子は二切れしか来ていないのに、これじゃあ日本人の感覚から言うともったいないんだよ。四切れならこの量で良いけど、これじゃあ多すぎる。いや、いおいしいよ。おいしいから言うんだよ。」これを横で聞いていて、私はますます陰鬱な気分になった。きっと本人に悪気はない。恐らく店のためを思って言っているのだろうが、それによってオペレーションに何らかの変更が加わるはずもないし、それでも店員はぺこぺこして謝りながら聞いている。ここでは双方に悪意はない(強いて言えば男性は罪のない自己顕示欲を発露させているのが未必の故意に近いかもしれない)。にもかかわらず、こういう不幸なことが起こって、店員も男性も、そして何より隣で聞いている私も少しずつ不幸になっている。こういう現象をミクロ経済学では負の外部性negative externalityという。

ここでは思い切って途中の議論はすっ飛ばして、結婚をしていないこと、すなわち独身でいることがある種の負の外部性が生ずるような性質と相関している、と仮定してみよう。乱暴な議論だが、土曜日の昼下がりに一人で(やや)ハイエンドな中華料理屋で食事をしているのは、少なくとも半数以上は独身者であるのに違いない。なぜ彼ら、彼女らは独身なのだろうか。独身でいる理由と負の外部性との間に何らかの関係性があるはずだ、というのが今回の仮説である。

日本では、国立社会保障・人口問題研究所という厚生労働省の関係団体が「独身者調査」という(恐ろしい)調査を行っている。この調査は大雑把に言うと「若者が結婚して子供を作らないことが原因で日本は高齢化社会に向かっているんだから、そうなっている理由を先ずは調査し、対策を考えよう」という趣旨で行われている。調査は主に18~34歳の未婚者を対象とした定量調査という体裁になっている。このことからもわかるように、この独身者調査は決して独身者全体を対象とした調査ではない。しかし大事なことは、この調査がかなりの長期間にわたって定期的に行われているということである。したがって、時系列的な変化を追ってゆけば、かつての若者であった今の高齢独身者がなぜ独身であることを選択したのかということを考えるヒントになってくれる可能性があるのである(ここでも我々は、今でも独身であることを選んでいる高齢者はかつて若かりし頃にも独身であることを選び取っているはずだという乱暴な仮説を置いている)。

図表I-1-6は18~34歳の未婚男女が「結婚の利点」であるとして考えている要素を時系列的に表現している。ここで見られるパターンとしては以下のようなものがあるだろう。
  • 「精神的安らぎの場が得られる」と「愛情を感じている人と暮らせる」といったようなエモーショナルなメリットを感じている調査対象者は減少傾向にあり、「自分の子どもや家族をもてる」や女性の「経済的に余裕がもてる」というファンクショナルなメリットを感じている調査対象者は増加傾向にある。
  • 「経済的な余裕がもてる」という項目では女性には著しい増加傾向が見られるのに対し、男性は低く維持されており、このことは結婚という制度に由来する経済的な相互依存度の性差が拡大して行っていることを示している。
  • 逆のパターンが見られるのが「愛情を感じている人と暮らせる」であり、もともとは女性が男性より高かったものが、最近では値が近づいてきている。
気を付けなければならないのは、これは結婚をしていない男女に結婚についてどう思うかということを聞いた結果であるために、当然結婚を経験してから感じたことを述べているわけでないということである。ここから見えてくるのは、年配の未婚者にとって結婚とはよりエモーショナルなものであって、逆に言うとファンクショナルな理由から結婚を選ぶという必要性が、今のいわゆる「結婚適齢期(この言葉は個人的にはおかしいと思っているのであえて鍵括弧をつけている)」の未婚者ほどにはないのではないか、と仮定できるということである。

一方、図I-1-8は、同じく18~34歳の未婚男女が今度は「独身生活の利点」であるとして考えている要素を時系列的に表現したものである。こちらは現在の自分の未婚者であるという状態についての経験に基づいたものであることが、先の図表とは大きく異なる点である。これについては、以下のような解釈が可能であろう。
  • 「行動や生き方が自由」であると感じている調査対象者が圧倒的に多く、またそれ以外の要素と比べても極めて多い。
  • 一般的には「結婚の利点」に比べて、時系列的に変動の傾向があまり見られない。
  • 「広い友人関係を保ちやすい」「異性との交際が自由」という結婚以外の人間関係に対する指向性に減少傾向が見られる。

更に図表I-1-7の「未婚者の独身生活の利点」に関する考えの情報を見てみよう。ここから言えそうなことは、

  • 独身生活に利点があると考えている未婚者は男女とも高い割合を維持している。


したがって、過去も未来も、つまり世代にわたって、未婚者は自分が未婚であることを概ね肯定しており、かつその理由は圧倒的に行動や生き方が自由であることによっているということなのである。これらの結果を実社会に大胆に当てはめてみるとこういうことが言えるかもしれない。
  • 日本の社会には、世代を超えて一定数、自由を求めて独身で居続ける、もしくは少なくとも居続けたいと思っている人がいる。
  • 若い世代の未婚者は子供や家族を持つことや、経済的な余裕といったようなファンクショナルな目標を達成するのであれば、自由を捨てて結婚をせざるを得ないというトレードオフを認識している可能性がある。特に若い女性には経済的な余裕を求めて自分の自由をあきらめようとする傾向があるようにも見える。
  • 高齢の未婚者は(おそらく若い世代に比べて裕福であるために)そのようなファンクショナルな必要性を求めておらず、結婚生活とはエモーショナルなものであると考えており、(自分と違って)結婚をしている人はファンクショナルな必要性ではなく、精神的依存性を求めて結婚しているのではないかと考えている可能性がある。

つまり、若い世代で結婚している人の中にはいわば経済的な必要性に従って止むを得ず結婚しているように見える人もいる一方で、高齢の独身者はいわば「自由を勝ち取っている勝者」として自分を見ている可能性がある。そうだとすると、ある土曜の昼下がりの「梅蘭」の60代の男性がとった行動は、世の中のことを分かっていないが故に、だらしない若者の店員に対して教えを垂れてやっているとの立場からのものである、と考えることもできる。

いずれにせよ迷惑な話なのだが、世代間にこういう傾向があるということを把握しておくと、自分の行動も一般的にはそういう世代による影響を受ける可能性があるということを認識しながら行動できるのかもしれない。