このクリスマス休みの間に読みきった最初の本である。もう一冊読みきれるかどうか、全く自信がない。シカゴ大学の経済学教授であるProf. Mike Gibbsに推薦していただきました。MBAで彼の講義を受けましたが、本当にすばらしかった。Mike、すばらしい本をご紹介いただきまして本当にありがとうございます。
http://www.amazon.com/Pharmaceutical-Economics-Policy-Stuart-Schweitzer/dp/0195300955
医薬品業界に関わっているのであれば必携・必読の本である。この版が出版されてから5年が経っており、やや古い情報が含まれているのは止むを得ない。この業界で5年というのは、いろいろなルールを変化させるのには十分すぎる。にもかかわらずこの本の取り扱っている分野の広さ、そしてミクロ経済理論に立脚した論旨の確かさは絶賛に値する。備忘録として、重要だと思われたいくつかの点に触れておきたい。
1) 薬価の理論
最も興味深かったのは、医薬品の価格決定要因はそのコストではなく市場の需要水準であるという点である。これは医薬品業界に関わるものとしては意外であった。というのも、私は他の一般消費財と比べて医薬品の価格が高いのは研究開発費が高いからであると信じていたからである。著者らの観察によればそうではなく、医薬品の価値を決定しているのは製造側の要素ではなく市場である。市場がその医薬品の属性をどのように評価するかによって価格が決まるのである。そして、需要曲線と限界費用曲線から利潤を最大化させる生産量を決定しそれに伴って価格が決定され、利潤がもたらされる。もたらされた利潤の大きさによって、次の研究開発投資の判断がなされるのである。この逆ではない。このことを証明するのに十分な根拠が存在する。これについてご興味のある方は、アマゾンかどこかで是非この本の購入をご検討ください。このことが指し示しているのは、業界人としては、他に選択肢がないという患者の急な弱みに付け込んで法外に高い価格を自分の薬に設定して、その高い利益を身勝手な研究開発活動に注ぎ込んでいるという罪の意識に駆られなくてもいいということである。繰り返しになるが、市場が医薬品の価格を決定しているのであり、医薬品の高い利益率は、市場が医薬品の研究開発に投資を望んでいることを示している。.
2) ゾロ新の価値
薬価の議論と関連してであるが、この本を読む前には、私はゾロ新、すなわち先発品と殆ど特筆すべき差がない新薬の価値を認めていなかった。しかしゾロ新は患者や医者にとっては殆どメリットはないが、保険者や製造側への影響は大きい。なぜなら考えてみれば当然のことだが競争は価格を引き下げ、結果的にはそれは医療費の抑制につながるのである。公定薬価性で企業が薬価を直接決められない日本の医薬品業界出身者としては、これは当初は腑に落ちなかった。しかし、日本においてさえも、リベートを含めた卸への販売価格を調整することによって、納入価に競争力を持たせることが間接的には可能だし、公定薬価はこの市場実勢価を評価して見直されるわけで、特に先発品の特許が切れていないときには、ゾロ新には明確に医療費抑制効果があるはずである。
3) 市場メカニズムによる医療費削減効果の限界
アメリカは恐らく、先進国の中では唯一、医療費を削減するために市場メカニズムを導入している国である。ジェネリックの高い浸透率、医療費全体に占める医薬品の費用のシェアの低さを見ると、個人的にはこの制度は有効に機能していると思い込んでいた。しかしながら最近の研究によるとどうも必ずしもそうではなさそうである。フォーミュラリーはこのマネージド・ケアの核心にある政策であり、類似薬の中で最も費用対効果が高い薬だけに処方を制限しようとするものである。医師の処方権を制限して、高価な医薬品が処方されることを防ぐことによって当該治療における費用の抑制が直感的には期待できるはずである。ところが、実際にはフォーミュラリーの運用が厳格であればあるほど医療費削減がうまく行かなくなるというケースが複数報告されており、この期待はやや短絡的だったのではないかという疑問がもたれている。これは、類似薬といえども完全な代替品ではなく、「その患者にとってより適切だった医薬品が最適でない医薬品によって代替された場合、医薬品のコストはある程度抑制できるとしても、医薬品以外の医療費が高くなる可能性は低くない。病院や医師にかかる費用は(医薬品と比べて)遥かに大きいので、全体としての医療費はそのような細かな違いに対して鋭敏に反応する」からである。

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